「その薬、飛ばせますか?」操縦士の安全管理と教育の在り方を問う

ドローン業界では「社会実装」という言葉が飛び交っていますが、その根幹を支える「安全運航」の管理体制については、いまだに議論が不十分であると感じざるを得ません。

今回は、意外と知られていない「操縦者の体調・薬物管理」という視点から、現在の運用体制が抱える課題について考察します。

操縦士の「教育」は誰が担うのか

改めて突き詰めると、一つの大きな疑問に突き当たります。
「操縦者に対する教育は、一体誰が責任を持って行うべきなのか?」という問題です。

航空法第132条の86第1項第1号では、「薬物の影響」下での飛行禁止が明文化されています。しかし、具体的に「どの薬であれば服用して良いのか」という実務的なレベルまで正しく理解している操縦士が、果たしてどれほどいるのでしょうか。

「アレグラはOK、アレジオンはNG」という現実

実は、この具体的な判断基準については、一等無人航空機操縦士の「25kg未満限定解除」における航空身体検査の過程で、専門的な知見として教授される機会があります。

例えば、多くの人が悩まされる花粉症の薬を例に挙げましょう。航空身体検査の基準に照らすと、服用が認められるのは以下の成分に限られるとされています。

  • フェキソフェナジン(商品名:アレグラなど)
  • ロラタジン(商品名:クラリチンなど)
  • デスロラタジン(商品名:デザレックスなど)
  • ビラスチン(商品名:ビラノアなど)

具体的な商品名で言えば、「アレグラはOKだが、アレジオンはNG」という明確な線引きが存在するのです。

すべての操縦士に関わる「運航管理」の重要性

この知識は、一等資格の限定解除者に限った話ではありません。航空法に規定されている以上、一等の限定保有者や二等操縦士、さらには特定飛行を行うすべてのドローン操縦士に関わる極めて重要な事項です。

私自身、薬を処方される際には、必ず薬剤師に対して「パイロットとして使用制限のある薬かどうか」を確認することを徹底しています。しかし、ドローンを事業として展開している組織の中で、ここまで踏み込んだ運航管理・安全管理を行っている事業者が、現時点でどの程度存在するのでしょうか。

産業の発展と「運航管理者」の不在

社会実装を加速させる一方で、こうした安全運航の根幹を管理する人間、つまり「運航管理者」の配置を義務付けていない現状には、危うさを感じざるを得ません。

操縦士個人のスキルや努力に依存するのではなく、組織として体系的に安全を担保する仕組み(ガバナンス)がなければ、この産業が真の意味で健全に発展していくことは難しいのではないでしょうか。

私たちは今一度、「飛ばす技術」と同じくらい、「管理する体制」に目を向ける時期に来ているのかもしれません。