【法令解説】ドローンの「機体貸借」は違法なのか?〜勘違いだらけの法令理解と特定飛行の罠〜

ドローン業界において、正しい知識を持たないまま不正確な法令解釈を振りかざすケースは後を絶ちません。私自身、日頃から「事業者には正しい知識を持った『運航管理責任者』の設置を国は義務化すべきだ」と主張していますが、その必要性を痛感させられるのが「他人のドローンを借りて飛ばすのは違法だ」という誤った説です。

結論から申し上げます。「機体の貸借」という一点において、法的になんの違法性もありません。

なぜこのような誤解が生まれるのか、実際の航空法の条文構造や国交省(空港事務所)への確認内容を交えて分かりやすく解説します。

1. 「機体の貸借=違法」という根本的な勘違い

「借りた機体で飛ばすと違法になる」という主張をする人が陥っている最大の罠は、「機体の貸借」と「特定飛行の許可・承認」という全く別の論点を混同していることにあります。

航空法、同施行規則、関連する通達やガイドラインのどこを読んでも、「機体の貸借を禁止する」条項は一切存在しません。 もし機体の貸借が違法であるならば、世の中に存在するドローンのレンタルサービスやシェアリング事業はすべて違法業務ということになってしまいます。

では、なぜ彼らは違法だと騒ぐのでしょうか? おそらく「借りた機体で許可・承認申請を出していないのではないか」「操縦者登録はどうなっているのか」といった点を突きたいのだと推測されます。しかし、それは「貸借」の問題ではなく、「そのフライトが許可・承認を要する『特定飛行』に該当するかどうか」という別の話です。

事象を履き違えてごっちゃにしたまま「貸借だから違法だ」と主張するのは、あまりにも杜撰な法令理解と言わざるを得ません。

2. 「特定飛行」に該当しない場合の法令チェックリスト

百歩譲って「借りた機体での飛行だから問題だ」と論じるのであれば、前提として「そのフライトがそもそも特定飛行に該当するのか」を精査しなければなりません。特定飛行に該当しない「通常の飛行」であれば、許可・承認も操縦者登録の紐付けも必要ないからです。

特定飛行に該当しない実際のフライト環境を、航空法の主要な条文に照らし合わせてみましょう。

• ① 航空法第132条の85第1項第1号(空域制限)

空港等の周辺ではない/地表および水面から150mを超えない高度である

➔ 【違法性なし】

• ② 航空法第132条の85第1項第2号(DID地区)

人口集中地区(DID)の上空ではない

➔ 【違法性なし】

• ③ 航空法第132条の86第1項第1号〜4号(必須事項)

必須事項に抵触しない

➔ 【違法性なし】

• ④ 航空法第132条の86第2項第1号(夜間飛行)

日中帯の飛行である

➔ 【違法性なし】

• ⑤ 航空法第132条の86第2項第2号(目視外飛行)

直接目視できる範囲内での飛行である

➔ 【違法性なし】

• ⑥ 航空法第132条の86第2項第3号(30m離隔)

管理されたグラウンド等であり、第三者や第三者物件から30m以上の距離を確保できている

➔ 【違法性なし】

• ⑦ 航空法第132条の86第2項第4号(イベント上空)

多数の者が集合する催し(イベント)の上空ではない

➔ 【違法性なし】

• ⑧ 航空法第132条の86第2項第5号(危険物輸送)

危険物の輸送ではない

➔ 【違法性なし】

• ⑨ 航空法第132条の86第2項第6号(物件投下)

物件の投下を行わない飛行である

➔ 【違法性なし】

• ⑩ 航空法第132条の87(立入管理措置)

飛行経路内への第三者の立入りが適切に管理されている

➔ 【違法性なし】

• ⑪ 航空法第132条の88および89(飛行計画・日誌等)

①〜⑩に該当せず「特定飛行」ではないため、許可承認に紐づく特別な前提義務は発生しない(記録や周知を行っていればなお良し)

➔ 【違法性なし】

このように、主要な条文を一つひとつ紐解けば、特定飛行に該当しないフライトにおいて「貸借機だから違法」となる要素はどこにも存在しないことがわかります。

3. 国土交通省(空港事務所)への公式確認と緊急時の解釈

この点について、私自身が災害対応の観点を含め、管轄の空港事務所へ直接確認した回答をご紹介します。

【質問】

「現場で貸借した機体による飛行は法的に許可されるのか?」

【空港事務所からの回答】

「特定飛行」に該当しない飛行であれば、機体の貸借における飛行を制限・禁止する規定はありません。 所持していない機体をその場で借りて飛行させること自体に制限はありません。

なお、災害時などの緊急事態において貸借機で「特定飛行」を行う場合であっても、平時から包括申請を取得しておくことが望ましいものの、万が一の際には航空法第132条の92(適用除外・緊急時の特例)という観点から、事前取得がなくても飛行が許可される仕組みが存在します。

平時・非常時を問わず、「特定飛行に当たらない飛行で、機体を借りて飛ばすこと」を違法と決めつけるのは、完全な法解釈の誤りです。

4. まとめ:なぜ「運航管理責任者」の義務化が必要なのか?

今回の件のように、法令の表面的な単語だけを捉え、条文構造やコンプライアンスの文脈を理解せずに「違法だ」と騒ぎ立てる「自称プロ」が現場を混乱させるケースは少なくありません。

こうした無理解や誤解によるトラブルを防ぎ、ビジネスや現場で安全かつ合法的にドローンを活用するためには、操縦士個人の感覚に頼る運用から脱却する必要があります。

• フライトが「特定飛行」に該当するか否かの正しいリスク評価

• 航空法をはじめとする関係法令の網羅的なチェック

• 国交省や関係機関との正当なコンプライアンス体制の維持

これらを客観的かつ論理的に統制できる「運航管理責任者(運航管理者)」の設置を、国はすべての事業者に対して義務化していくべきです。

ドローンを活用する企業や事業者は、感情論や誤った情報に惑わされることなく、法令を正しく理解し遵守できる組織体制(運航管理体制)の構築に努めていきましょう。