【違法の罠】公的機関庁舎へのドローン衝突事故から読み解く「催し場所上空」の未申請リスクと飛行規程の現実

最近、公的機関の歴史ある庁舎周辺でドローンが衝突・落下し、航空法違反の疑いが報じられる事案がありました。報道や現場の状況から、メインの建物を撮影しようと機体を移動させた際、背後の別棟に衝突したものと推測されています。

ドローンのビジネス活用が進む一方で、運用側や関係者の法令理解が追いついておらず、現場で深刻なコンプライアンス違反が発生しているのが実情です。今回は、相次ぐ事故から読み解く「催し場所上空(イベント上空)の未申請リスク」や飛行規程の現実、そして大手企業すら抱える体制の不備と「運航管理体制」の必要性について解説します。

1. 無許可・未申請の違法状態?「催し場所上空」と複合リスクの罠

事故が発生した際、「包括申請を取っているから問題ない」と思い込んでいる事業者は少なくありません。しかし、包括申請は万能の免罪符ではありません。

①イベント・催し場所上空飛行の事前申請漏れ

今回の事案は、報道では明確にされていませんが(報道している側も十分に把握できていない可能性がありますが)、日時や場所が指定されているケースのため、航空法上の「多数の者が集合する催し場所の上空(イベント上空)」に該当する可能性が極めて高いと考えられます。

イベント上空での飛行は、通常の包括申請でカバーすることはできず、日時や場所、具体的な安全対策を定めた「個別申請」が必須です。今回の事例のように特定の日時・場所で撮影を行い事故を起こすケースでは、そもそも「催し場所上空」に該当するという認識すら欠けたまま、無許可・未申請の違法状態のまま飛行させていた疑いが濃厚と言えます。

② DID × 夜間 × 目視外飛行の複合リスク

さらに、人口集中地区(DID)において夜間に飛行させ、建物の陰に入って直接機体を見失う「目視外飛行」が重なると、リスクレベルは一気に跳ね上がります。こうした複合的な特定飛行を行う場合は、事前の個別申請や独自マニュアルによる安全体制の大幅な強化が不可欠です。

2. 許可があっても逃れられない「イベント上空の制限」とメーカー保証の壁

仮にイベント上空の個別申請を通したとしても、運用上には大きな壁が存在します。申請時に添付した飛行マニュアルの内容を遵守しない飛行は、即座に航空法違反となります。

「飛行速度+風速=7m/s未満」という絶対ルール

標準的なマニュアルでイベント上空の承認を得た場合、審査要領に基づき「7m/s以上の飛行は行わないこと」と定められており、「飛行速度+風速=7m/s未満」であることが絶対条件となります。完全な無風(風速0m/s)の環境であったとしても、許される飛行速度の上限は7m/s未満(時速25.2km未満)に制限されるのです。

機体メーカー運用における「保証」の壁

この7m/s未満という厳しい制限を解除し、より速い速度で飛ばすための条件として、審査要領では以下の安全対策をセットで講じることが求められています。

  • 【製造者等による落下距離の保証】と【その落下距離に応じた立入禁止区画の設定】の両方を同時に満たすこと

しかしここで、市場の多くを占める主要メーカー(DJI等)のドローンを使用している操縦者が直面する構造的な課題があります。現在、主要メーカーはイベント上空における「落下距離を保証する資料」の発行を行っていません。

前提となるメーカーからの保証資料が得られない以上、どれだけ広い立入禁止区画を用意しようとも、この規制緩和条件を満たすことは不可能です。結論として、一般的な主要メーカー機を使用する場合、標準マニュアルの規定通り、イベント上空で飛行速度制限(風速と合わせて7m/s未満)を超えることはできないのです。

3. 認証機であっても逃れられない「無人航空機飛行規程」の制約

機体の種類に関わらず、メーカーが発行する「無人航空機飛行規程」には、絶対遵守すべきルールが存在します。

  • 第三者や物件から30m未満の距離で飛行させる場合:プロペラガード等の装着が必須
  • プロペラガード等の安全装備を装着する場合:目視外飛行は禁止(BVLOS不可)

市街地や建築物の周辺撮影では、周囲の物件から30m以上の距離を保つことが難しく、事実上プロペラガードの装着が義務付けられます。しかし、ガードを装着した状態で建物の裏側に機体が隠れるような「目視外飛行」を行えば、その時点で無人航空機飛行規程違反(=航空法違反)となります。

今回のように、機体を目視確認できない状態で建物の間で飛ばしたことが、衝突事故の根本原因と考えられます。

4. 大手広告代理店すら抱える「考えの甘さ」が、日本のドローン発展を阻害している

批判を覚悟で言及すれば、今回の案件のように大規模なPRや撮影プロジェクトを手掛けているのは、誰もが知るような「大手広告代理店」です。業界を牽引すべき大手企業でありながら、ドローンのコンプライアンスや安全運航体制に対する考え方があまりにも甘いと言わざるを得ません。

「プロの操縦者(下請け)に任せているから問題ない」「資格を持っている業者だから大丈夫だろう」といった安易な認識で、安全管理や法的チェックの責任を現場へ丸投げにしていないでしょうか。複雑な航空法や他法令、メーカーの飛行規程を理解しないまま、スケジュールの消化や映像表現の見た目ばかりを優先した結果が、こうした法令違反の疑いや事故を引き起こしているのです。

本来であれば、ビジネスを主導する大手代理店こそが手本となる安全管理体制を提示すべきです。大手ですらガバナンス体制の構築を怠り、不適切な運用や事故を繰り返す現状こそが、世間の不信感を煽り、結果として日本国内におけるドローンの健全な社会実装や発展を著しく阻害している最大の問題です。

5. 結論:操縦者任せを脱し「運航管理責任者」による事前ガバナンスを

ドローンを安全かつ適法に運用するためには、現場のパイロット個人や下請け事業者の判断だけに頼る体制から今すぐ脱却しなければなりません。

  • 計画中の飛行が「催し場所上空」や「複合的な特定飛行」に該当しないかの事前監査
  • 「個別申請」の要否、および「無人航空機飛行規程」に基づく制限の照合
  • 現場に対する適法性・安全性の観点からの客観的なGo / No-Go判断

これらを専門的に管理・統制する「運航管理責任者(運航管理者)」の社内配置およびガバナンス体制の構築こそが、企業のリスクを防ぎ、ドローン業界全体の健全な発展に不可欠です。

発注側も受注側も「包括申請を持っているから」と丸投げで済ませるのをやめ、機体の法的な限界と現場の状況を照らし合わせ、そのフライトが法的に真にクリアされているかを事前に確認できる体制を、企業として整えていきましょう。